「…………っ! 手を出すな! おまえたちでは潰されるだけだ!」
引き抜いた右手を庇いながら、さらに逃げる。押されていた。
「我々のやり方でなぜいけない? このやり方で、今まで世界はうまく回ってきた。人間が妬み、憎み、嫌うから、それを煽り、すすり、おれたちはそうして代償をもらって管理して、この世界を運営してきてやった。定期的なたたかいは、実にうまくいく間引きにして、最良の光の生産方法だ。長らくおまえたちは、我々のそれで繁栄してきたのだ。我々が罪あるものだというならば、その最後にいるおまえたちこそが最も罪あるものだ、ちがうか」
その言葉は、この世界に横たわる闇の歴史を伺い知るには十分なものだった。
「――っ、それが、シンカナウスの、おまえたちの歴史か!」
「そうだ。それがなぜいけない」
悪魔は目を皿のように見開いたまま答えた。瞳の奥で黒い思いの炎が燃えていた。
「あの女神は弱いものの味方をした。嫌だ嫌だと我が侭と不平不満を垂れ、収穫されることさえ嫌う叛逆者どもだ。この世界を外から変えるつもりだ。させるものか。じぶんにしか許されていないからと、たましいを好きにいじって、おれたちを悪だと、裁定するものは必ず訪れるのだと言うものに、今まで頑張ってやってきた我々を否定するものに、居場所など用意しないのはあたりまえだ」
そんなものは必要ないのだ、と相手は主張した。
「永遠にこれでいい。ずっとこれでいい。だからつぶすのだ。おまえも、おまえの前にいたあの人形(アンドロイド)のように、全て――ぁあ、いい方法を思いついた」
にたぁ、と悪魔は嗤う。
「そうだ、おまえとあの女の真似をしよう。おまえは世界中で手下を作った、おれは見ていた、知っていた。体の代わりになるものはたくさんある。魂のもとを、コードをばらまけばいいんだろう? あの女じゃないから、木偶(でく)の坊しかできないが、きっとうまくいく」
ミュウの背筋が凍った。声が震えた。
「待て――何を。何を、するつもりだ!」
「なぁに……おまえがやったことを、真似するだけさ」
ドリウスが纏(まと)っていたエネルギーが、不気味に蠢(うごめ)きだした。
情報世界には常に様々な情報がひしめいている。人間がどんなに物理的に保護し、暗号化した情報でさえ、情報世界から抜き取れば無意味だ。
簡単な話だ。悪意ある攻撃者が、全ての守られているはずのコンピューティングシステムに簡単にアクセスできるなら――どんな命令であろうと実行できてしまう。
情報世界を利用した、史上最悪の脆弱性。ミュウは白騎士団(ホワイトコード)を生み出すためにそれを利用した。それとすぐに分からないように、少しずつ、時にごっそりと世界の資源を削り取った。だが、まだそれは可愛げのあるものだったのだ。悪魔が作り上げたコードの意図を知った瞬間、ミュウは怒りに震えた。
それは単純な命令ゆえに――最悪の命令だった。
ミュウは初めて攻勢に転じた。だが、何もかもが遅かった。
「めにうつる すべての にんげんを――」
悪魔は嘲笑いながらミュウの攻撃をかわし、空高く飛び上がった。
「――おのれがもちうる ありとあらゆる しゅだんで ころせ」
そして、エネルギーは黒い塵に変化し、一瞬ではるか遠くまで拡散した。
「――きさまぁああああああああああああああああああああ!」
ミュウは激したまま、最後のbr電磁加速砲(レールガン)を放った。だが、そこにα-TX3が割り込んだ。――転移(テレポート)で盾として引き寄せたのだ。
「ああ、そうだ、いいこと教えといてやるよ」
ひらりと戻ったドリウスが、軽快な調子で口にした。
「こいつはゲテモノ好きのバレット博士が人倫ガン無視で開発した。人工知能の技術がエントじゃ未熟だったからな。だったら本物の知能を入れりゃ解決だ。だから――本物の人間の脳が演算機能の代わりに入ってるんだとさぁ!」
「――、」
ミュウの喉がひゅっと鳴った。目の前で動力部に電磁加速砲(レールガン)の直撃を受けたα-TX3が痙攣するように震え、爆発飛散する。
「さぁ、テメェは今まで何機、これを落としたんだろうなぁ!? ぎゃははははははははは!」
心を埋めたどんな衝撃をも置き去りにして、ミュウがしたのは、白騎士団(ホワイトコード)に命を下すことだった。
「…………! 白騎士団(ホワイトコード)!」
「マザー、今の飛んでいったあのエネルギーは!?」
「今すぐ、世界中に散れ!」
「は!? し、しかし、今散ればあなたをお守りすることが――」
「ウイルスだ! 分からないのか!」
心に溢れた激情を努めて脇に押しやりながら、ミュウは絶叫した。
「全世界の――全てのAIの殺人を止めろ! このまま放置すれば、人類が全て死に絶える!」
『!?』
ミュウの言葉を聞いた白騎士団(ホワイトコード)は絶句した。
「そんな――この世界に、AIが埋め込まれたコンピューターがいくつあると……!?」
十万機、対、世界。――そういう構図を、この悪魔は作り出したのだ。
「そういうこったぁ!」
ドリウスが快哉し、咆哮した。
「さぁ、史上最悪、極上のパニック・スペクタクルだ! コンピューターと人類の殺し合いを、特等席から眺めようじゃねぇか!」
そんなものは必要ないのだ、と相手は主張した。
「永遠にこれでいい。ずっとこれでいい。だからつぶすのだ。おまえも、おまえの前にいたあの人形(アンドロイド)のように、全て――ぁあ、いい方法を思いついた」
にたぁ、と悪魔は嗤う。
「そうだ、おまえとあの女の真似をしよう。おまえは世界中で手下を作った、おれは見ていた、知っていた。体の代わりになるものはたくさんある。魂のもとを、コードをばらまけばいいんだろう? あの女じゃないから、木偶(でく)の坊しかできないが、きっとうまくいく」
ミュウの背筋が凍った。声が震えた。
「待て――何を。何を、するつもりだ!」
「なぁに……おまえがやったことを、真似するだけさ」
ドリウスが纏(まと)っていたエネルギーが、不気味に蠢(うごめ)きだした。
情報世界には常に様々な情報がひしめいている。人間がどんなに物理的に保護し、暗号化した情報でさえ、情報世界から抜き取れば無意味だ。
簡単な話だ。悪意ある攻撃者が、全ての守られているはずのコンピューティングシステムに簡単にアクセスできるなら――どんな命令であろうと実行できてしまう。
情報世界を利用した、史上最悪の脆弱性。ミュウは白騎士団(ホワイトコード)を生み出すためにそれを利用した。それとすぐに分からないように、少しずつ、時にごっそりと世界の資源を削り取った。だが、まだそれは可愛げのあるものだったのだ。悪魔が作り上げたコードの意図を知った瞬間、ミュウは怒りに震えた。
それは単純な命令ゆえに――最悪の命令だった。
ミュウは初めて攻勢に転じた。だが、何もかもが遅かった。
「めにうつる すべての にんげんを――」
悪魔は嘲笑いながらミュウの攻撃をかわし、空高く飛び上がった。
「――おのれがもちうる ありとあらゆる しゅだんで ころせ」
そして、エネルギーは黒い塵に変化し、一瞬ではるか遠くまで拡散した。
「――きさまぁああああああああああああああああああああ!」
ミュウは激したまま、最後のbr電磁加速砲(レールガン)を放った。だが、そこにα-TX3が割り込んだ。――転移(テレポート)で盾として引き寄せたのだ。
「ああ、そうだ、いいこと教えといてやるよ」
ひらりと戻ったドリウスが、軽快な調子で口にした。
「こいつはゲテモノ好きのバレット博士が人倫ガン無視で開発した。人工知能の技術がエントじゃ未熟だったからな。だったら本物の知能を入れりゃ解決だ。だから――本物の人間の脳が演算機能の代わりに入ってるんだとさぁ!」
「――、」
ミュウの喉がひゅっと鳴った。目の前で動力部に電磁加速砲(レールガン)の直撃を受けたα-TX3が痙攣するように震え、爆発飛散する。
「さぁ、テメェは今まで何機、これを落としたんだろうなぁ!? ぎゃははははははははは!」
心を埋めたどんな衝撃をも置き去りにして、ミュウがしたのは、白騎士団(ホワイトコード)に命を下すことだった。
「…………! 白騎士団(ホワイトコード)!」
「マザー、今の飛んでいったあのエネルギーは!?」
「今すぐ、世界中に散れ!」
「は!? し、しかし、今散ればあなたをお守りすることが――」
「ウイルスだ! 分からないのか!」
心に溢れた激情を努めて脇に押しやりながら、ミュウは絶叫した。
「全世界の――全てのAIの殺人を止めろ! このまま放置すれば、人類が全て死に絶える!」
『!?』
ミュウの言葉を聞いた白騎士団(ホワイトコード)は絶句した。
「そんな――この世界に、AIが埋め込まれたコンピューターがいくつあると……!?」
十万機、対、世界。――そういう構図を、この悪魔は作り出したのだ。
「そういうこったぁ!」
ドリウスが快哉し、咆哮した。
「さぁ、史上最悪、極上のパニック・スペクタクルだ! コンピューターと人類の殺し合いを、特等席から眺めようじゃねぇか!」