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精神学協会:ゴッドブレインサーバー掲載
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Vol.51:一章-5

 *
 
 
 オーギル海の上空は荒れていた。
 
 おびただしい量の光線が水平線上の向こうから放たれては、揚陸艦が展開したシールドに大量に突き刺さって甲高い音を上げる。シンカナウスの防空システムの攻撃だ。頭上で炸裂する光にどうにかシールドは持ちこたえているものの、こうも数が重なると聞く人間の精神を削り疲弊させる。よもやそれが目的なのかと思うほど、嫌がらせに徹した仕上がりだ、といっそ感服すらした。
「クソッ、思うように進めやしない! 向こうの迎撃機能の破壊はまだなのか!」
「あの兵器(アンドロイド)どもに大分艦隊がやられたからな。安全な空域の確立が進んでいない状態なんだろうよ!」
 ドリウスがリーデルを伴って甲板に出てくると、悪態を吐く兵士たちの声が耳に入った。頭上がうるさすぎて隣にいるリーデルの耳には聞き取れまいが、機械化されて識別能が上がっているドリウスの耳にはよく聞こえてくる。

「例の巨人兵器がいればなぎ払える。再起動まで残り数時間を切ったんだ、もう少し粘ればこちらが勝つさ……おい、そこの傭兵! 何している!? 何だそこの女は?」
「あー、こいつは俺が苦労して確保したシンカナウス上陸後の案内人なんだ。ああ、許可はちゃんと取ってある、上に確認してくれ。そこの戦闘飛行艇も借りるぜ。そろそろ頃合いだろうからな」
「あ、おい!」
 兵士が止めるのもろくに聞かず、ビーム式のカタパルト奥、開いていたシャッターの中に入り込み、目当ての移動手段を見つけた。
 白い上下の飛行スーツを着ただけのリーデルをひょいっと抱え上げて後部座席に押し込むと、ドリウスはよっこらせとその前に飛び乗った。
「操縦できるの?」
「おぅ、この体になる前は一流の腕だった。今じゃ自分で飛んだ方が早いがな。相当Gがかかるから気絶してていいぞ。ただし上げるのだけはよしてくれ、窒息死されちゃ敵わん」
「……ほんっとサイテイ。うちの国なら重力制御が効いてるから、Gなんかかかりっこないのに」
 マスクをつけながら、低くくぐもった返事が返ってくる。
「しょうがねぇだろ。おまえさんとこのアホみたいな技術が再現できねーんだよ、エント(こっち)はな」
 宣言通り、ウォルターの目を掻い潜ってリーデルを艦艇から連れ出し、揚陸艦組に潜り込んだドリウスは、さらに機に乗じて一足先にシンカナウスへ潜り込む予定だった。
「おお、手はず通り、いい弾積んでるな。手配が完璧じゃねぇか」
 モニターに表示された搭載火器の名称を見てはしゃぐドリウスの後頭部に、じっとりとした視線が突き刺さった。早くしろ、とでも言わんばかりの白い目線に、まぁ待てとなだめた。
「見ての通り防空システムで向こうからの熱烈歓迎を受けてる最中だ。こんな時に飛んだって海の藻屑だからな?」
「馬鹿なの?」
 ぼそっとリーデルが言った。
「シンカナウスの防空システムがどうなってるか知らないの? エネルギー供給を絶たない限り延々と撃ち続けてくるわよ」
「ははは、だろうな。だが、もうひとつこの爆撃の雨が止む時があるだろ?」
 女の柳眉が怪訝そうに潜められるが、答えはすぐに向こうからやってきた。
 不意に、揚陸艦に降り注いでいた弾幕が薄くなり、雨が上がるようにぽつぽつとした数に減っていく。
「向こうは傷ついた港町ひとつ抱えてるってことを忘れちゃいけねぇな。こっちに対抗手段がないでもねぇが、引っ張ってくるにも使えるようにするにも時間がかかる。だったら――人命をなるべく助けたいのが人情だ。前線を進めないために、時間稼ぎぐらいしにくる。だろ?」
 上空に現れた複数の艦影を睨み、リーデルは唸った。
「――あんたの考え方、好きじゃない」
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