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Vol.31:α-TX3

『こちら人形部隊(ドールズ)! 第七艦隊はまだ到着しないのですか!?』
『こちら中央司令部。あと二百秒ほどで到着する! 耐えてくれ!』
【おし! 五分切った! 気張れよ、みんなぁ!】
【空軍来るまでに終わらせられないかな、これ】
【いや無理だ。護衛艦と空母の装甲が堅い。これは抜くのに工夫がいる】
 さらなる状況の好転の兆しに、部隊が沸き立っているのをμは耳にした。
 だが――。
 
 ぞくり、と、異様な感覚が背筋を走り抜けた。

(何だ――)
 息を詰めて、μ(ミュウ)は振り向いた。
 テレポート・ゲート。唯一、空間転移船が出現しても防空網で撃墜されないと定められた空域。
 その、ただ中。
 
 ――何もない空間から、血のような色の巨大な射線が、こちらに向かって伸びているのを幻視した。
 
【――緊急。総員退避、高度三千以上上昇! 急いで!】
 全身を塗りつぶす怒濤(どとう)の警鐘に、反射的に叫んでいた。
 ε(イプシロン)の反応は早かった。
【!? μに従え!】
 瞬時に下された号令。全機が、戦闘機を、降り注ぐ砲弾を、ミサイルを避け、すべてへの対応をかなぐり捨て、振り切るようにして、一瞬にして指定された高度を稼ぐために上昇する。
【何か知らないが】
【とてつもなく嫌な予感だけは伝わった!】
【急げ、逃げろ!】
【何何!?】
 そして、それが運命の分かれ目だった。
 上昇したμたちは、自分たちの後方、先ほどまで保っていた高度に、待ち望んだ援軍がやってきていたことに気づいた。
『こちら、空軍第七艦隊。人形部隊(ドールズ)へ告ぐ、今から我々も――』
『――すぐにできる限り高度を上げろ! 何か来る!』
 通信を遮って放たれたεの怒声に、咄嗟に反応できた操縦士がいたならば、それは英断だっただろう。
 果たして、何もない空の向こうから、相手は現れた。
 
 海の上にふわりと影が差した。十数秒をかけて、白い光の筋が空間の一点に向かって高速で収束していく。やがて完成した二キロ近い高さの光の円に、蜃気楼のように大きくゆらぎながら、別の景色が姿を現した。
(テレポート・ホール――!)
 戦慄しながら見守るμたちは、その向こうの、巨大な人型の影と目が合ったのを感じた。
 そして、蜃気楼の向こうから放たれたのは――極大の、すべてを焼却する劫火(ごうか)をもたらす砲撃だった。
 
 光が通り過ぎた。世界から色が引きちぎられ、音が吹き飛ばされた。体はよく分からないうちに烈風に大きく引っ張られ、あるいは跳ね飛ばされそうになり、慌ててその場で制動をかけねばならなかった。急激に周辺温度が上昇し、火こそつかなくとも、体表の装備の一部が焦げ、塗装が剥げた。
 
 直撃を受けず、遙かに高度をとっていたμたちでさえ、それほどの影響と衝撃を受けた。
 ましてや、まともに受けた第七艦隊は――。
 
 世界に色が戻ってきた。轟音の洪水は数秒遅れてμたちのところにやってきた。空は青かったが、後方の地上は赤かった。蒼かった海は煮え、明るい碧(みどり)へ変色していた。
 
 第七艦隊の姿はない。あとに残るは、εの声に咄嗟に従い、わけも分からず急上昇した艦船が、たった三隻残るのみ。
 ――壊滅、だった。
 
 敵も味方も愕然としたのだろう。戦場から一切の砲声が絶えていた。
 そして、完全に開いたテレポート・ホールから、災厄の権化のように、砲撃の主が姿を現した。
 長い、金属で作られた無骨な漆黒の脚が、『海の上を』踏みしめた。アンドロイドのボディから余分なパーツを取り払い、最低限の骨と骨格筋しか残さなかったとでもいうような、機械作りの巨大な黒い人型兵器が姿を現した。総長は一千メートルを優に超えるだろう。その大きさゆえに、見る者には、粗悪なロボットのような外観も仕方ないと無理矢理納得させるほどのものだ。髑髏のように不気味な頭部の中央に、赤いライトがひとつ目のようについて光り、あたりを睥睨(へいげい)していた。手に握りしめているのは、巨大な砲塔を取り付けた槍のような武装であり、そこから蒸気が大量に立ち上っていた――砲撃は、あそこから放たれたのだ、と悟った。
 μは、その肩口の鎖骨のようなパーツに、型番らしき文字が描かれていたことに気がついた。
「α-TX3……」
 呟いた脳裏に、昨晩のことが思い浮かんだ。
(君たち、各国の兵器の情報はどれくらいインプットされている?)
(一通りは――)
(なら、最近この国と同盟国の間で共同開発されている、超大型兵器のことも? α-TX3のナンバリングに聞き覚えは?)
(……いいえ)
 
 μは既に見ていた。
 
 ここのところ、何度も夢に見ていた。知っていた。
 
 あれは、あの巨人のような兵器は。
「『炎に包まれた都市の中に立つ、巨大な、人型の兵器』――」
 
 あまりの威容と大量破壊兵器と言うべき砲撃の威力に、全員がなおも絶句していたところに、巨大兵器の頭蓋から通信が響いた。
 
『――こんにちは。あるいはお久しぶりといったところかな? シンカナウス、我が祖国よ』
 粘ついた、男の声だった。
『私はウォルター。ウォルター・バレット。エントの兵器開発主任。今回、特別にこの挨拶を届けさせてもらっている。何せ、最初にして最後のご挨拶だ。この言葉を聞いたあと、貴様らの国はなくなるのだから』
 その言葉の間に、一機、また一機と、テレポート・ゲートから、巨大機兵α-TX3が姿を現していく。
 そして、最後には十機の機兵が海の上に並び立った。アンドロイドたちにとっては、その光景は悪夢以外の何物でもなかった。
 
『滅び去れ、シンカナウス。私ではなく、狂信者のエメレオ・ヴァーチンを選んだ、醜い祖国よ』
 
 その言葉と共に――再び、十の槍の穂先に、灼滅の光が点った。
 
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