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Vol.25:アンドロイドたち

「――ともあれ、これで動かぬ証拠が揃った」
 
 路上に散らばったヘリの残骸から、ε(イプシロン)がエントのものだとエメレオが断言した武装の破片を拾い上げる。
 
「MOTHER」
『確認しました。――これより、エントは我が国の敵対国と認定されます。政府は戦争の宣言をするため、急いで準備をしています』
「「!」」
 μ(ミュウ)とλ(ラムダ)の顔が強張った。エメレオも静かに目を伏せた。

(ああ――やはり、こうなるか(・・・・・))
 そしてそれが、おそらくMOTHERが予想していたエント側のタイムリミット。技術者、科学者として、厄介かつ高い能力を有するエメレオ・ヴァーチンを、戦争が始まる前、まだシンカナウスが警戒の薄いうちに排除しようとした。
 予感はあった。μが、『燃える都市の中に立つ巨大な人型兵器』の夢を見た、と言った時から。
 アンドロイドが、あり得ぬはずの夢を見る。遠くどこからかの情報入力を受ける。
 それは、魂の定着の証だ。
 夢の内容は、おそらく『予告』だろう。その時に対峙するのはμだという、エメレオにしか分からない指名の知らせ。
 
 ――時は満ちた。
 エメレオ・ヴァーチンは役割を果たした。
 
(あとは――どうするか)
 静かにエメレオは思案する。
 
「……場所を変えたいね。ここでは目立ちすぎる」
 εが周りに目線を走らせながら呟いた。
「でも、どこに?」次の疑問を提起したのはλだ。「施設(ホーム)は研究所だから民間人もいる。何度も狙われた博士がいると、他の人間を巻き込むかも……」
「可能なら、一般人が少なくて、戦力が集まっていて、攻撃にも転じられる場所……軍事基地?」
 μの言葉に、εは悩む。
「確かに僕らは一応、陸軍特殊部隊所属になる予定だけど……まだ正式配属されてないのに、入れてもらえるとは思えないね……」
 アンドロイドたちの会話に、エメレオは顔を上げる。
「MOTHER。出撃後のアンドロイドの帰投場所は変更可能かい? ――関係各所とルプシー司令に許可はとれるかな?」
 ややあって、彼女から応えがあった。
『――本来の予定を前倒しする形で、既に調整は進めてあります。今し方、確認がとれました。こちらの場所へ向かってください。先方に連絡は入れておきます』
「さすがだね」
 MOTHERからの通信を手持ちの端末で受ける。地名を確認して、エメレオは頷いた。
 
「決まりだ。サエレ基地に向かおう」
 
 
 *
 
 
 サエレ基地は、エメレオたちが落ち合った場所からさらに南東へ進んだ都市郊外にある陸軍基地だ。海に面していたμたちの訓練施設である研究・生産区画とは対照的に、山陰に張りつくか、あるいは息を潜めるように存在していた。
 基地が擁するのは、第一から第七までの七つの旅団と五つの大隊、総勢二○六九四名からなる、シンカナウス陸軍・第三歩兵師団。μたち戦闘型アンドロイドのような、いわゆる『イロモノ』を含む特殊部隊などのように、先端技術を投入した戦術作戦を行ってきた歴史ある部隊だという。
「本来、君たちはここの特殊部隊所属として投入される予定だった。人形部隊(ドールズ)とでも呼称されるのかな。予定外に早く第一陣が到着した、ということになるだろうね」
 そう話したのはエメレオだ。
 
 だが。サエレ基地に入った戦闘型アンドロイドはTYPE:μ、TYPE:λ、TYPE:εの三名だけではなかった。
 
 ずらっと並んだ『二十四機』のアンドロイドたちは、司令官からの辞令を正式に受けるべく待機中で、全員不動の姿勢を取っている。
 が、うつむきがちなポーカーフェイスが二十四面揃った裏では、内緒話で大いに盛り上がっていた。通信ログに残さないよう、低位(ロー)プラズマでエネルギー化された暗号を体表で高速受発信してのやりとりである。
 そんな秘密回線をこっそり作ったことが露見すれば、おそらく司令本部も人類も冷や汗もののエネルギー発生機能の応用なのだが、当の本人たちからしてみれば、学園に通う子供がするがごとく、上位者に隠すための内緒話の類いで編み出された方法であった。
 μはハラハラと若干の罪悪感を抱えつつも、秘密の共有という楽しそうな状況に負けて、しっかりこの通信に参加していた。
 
【まさか……残り全員、こっちに待機戦力として移してあったとはね……MOTHERは抜かりないな】
 こっそり無表情で溜息をつくという器用な真似をしたのはTYPE:εである。
 
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