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エピローグ/Vol.41:傭兵の大笑い

 
 
 ドリウス・シュタウツァーは傭兵だ。エントの高官に雇われた、というのは嘘ではない。シンカナウスの海洋観測基地で後ろにいた高官どもではなく、雇い主がエントの軍の上層部だった、というだけである。
 気味の悪い挙動をする割にはやけに攻撃が弱気なアンドロイド、μ(ミュウ)と、その増援の同型機で、きゃんきゃんとうるさいが凄まじく殺意の高いλ(ラムダ)。その二人との戦いから撤退してきたドリウスは、雇い主にきちんと報告と詫びを入れていた。「エメレオ・ヴァーチンの確保には失敗した。相手のアンドロイドは想像以上に高性能だった」と。
 その後、単独でお空の上を頑張って飛んでいき、領空を抜けたところで待ち受けていた輸送機に回収された。苦労して確保した隣国のテレポート・ゲートエリアの通行許可を使って、エントの出撃間近の浮遊艦隊に合流したのである。

 そこから、後方でシンカナウスへの上陸部隊の一員として、先行して空間転送されていった艦隊の行方について、遅ればせながら映像で確認したのであるが。
 結果。
「――く、クククククク……あっはっはっはっはっはっはっは……!」
 ――非常に面白い見世物だった、という感想に尽きた。革張りのソファにもたれ、仰け反って大笑いをした。
「最高だったぜ、バレット博士! なんつー大スペクタクルのコメディだ! ご自慢の兵器がドミノみたいにばたばたと海の中になぎ倒されていくなんてよォ!」
 くっくっと喉の奥で笑いを堪えながら、ドリウスは同じ部屋で憤激している男に声をかけた。
 拳を勢いよくモニターの操作パネルに叩きつけ、肩を怒らせながら、ウォルター・バレットは血走らせた目をぎょろりと動かした。
「黙れ。貴様がエメレオ・ヴァーチンを捕らえていれば、貴様にもシンカナウスのアンドロイドの機能を搭載してやるつもりでおったのだぞ」
 そう言われてもなぁ、とドリウスは肩をすくめる。
「あの科学者、一見間抜けに見えるが、相当強(したた)かだぜ。TYPE:μとかいうやつも侮れねぇ。ただのアンドロイドと見くびってた俺が悪かったとしか言いようがねぇ。意味の分からねぇ機能で途中から盤面をひっくり返しに来やがった! ――ありゃあこの戦争一番のジョーカーだろうよ、俺の勘がそう言ってる!」
「……どういう意味だ」
「うまく化ければ、とんだ番狂わせをするかもしれない……そんな予感がしてるんだ、俺ァよ」
 リモコンでダイジェスト映像を巻き戻し、ドリウスは画像の中に映っているアンドロイドの横顔をニヤニヤと眺めた。単身、分厚い弾幕をものともせずに戦艦へ突貫をかけた時の彼女の鬼気迫る表情には、ドリウスの求めていた気迫が確かにあったのだ。
「イイ顔してんじゃねぇか。そうだよ、そういうのを求めてたんだよ……!」
 そのあとの、戦艦を機兵にぶつけるという突拍子もないアイデアも気に入った。咄嗟の判断だろうが、実に滅茶苦茶な戦法であり、無謀に過ぎる作戦だ。だがそれがいい。やろうと思って実際にやり遂げてしまうところも高評価だ。
 今の彼女なら、思う存分、心ゆくまで戦ってみたい。あの気迫なら、命のやりとりは最高に刺激的なものとなることだろう。
「……戦争狂いが」
 ウォルターは唾棄するように呟くと、部屋の外へと足を向ける。
「おおっとバレット博士、どちらへ?」
「αーTX3の引き上げ作業の状況を見に行く。私が調整を指揮せねばならん場所もあるからな」
 言って、スライドドアの向こうにエントの兵器開発主任の姿は消えた。
 
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